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CONTAX T2 と 森繁久弥……「哀愁」の表現者

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気がついたら好きになっていた
 若いころ、だいたい学生時代くらいまでだが、森繁久弥がきらいだった。彼が演じる社長はちょび髭を生やして、和服を着た女性にエッチなことをする、いやらしいエロ爺だった。たまに会社にいる場面があっても、話すことは遊びの打ち合わせばかりで、いつも宴会だった。小金持ちの下品な大人だった(今思うと、うらやましい限りだ。人生かくありたし)。あれは演技でなく、地で行っているに違いない。ああいう大人には、なりたくなかった。
 あるとき、そうでもないなと思った。歳をとるにしたがって森繁が好きになり、いつの間にか、好きで好きでたまらなくなった。

品格と色気と哀愁と
 松岡正剛さんは、子供のころから、森繁が好きだったそうだ。私とはずいぶん違う。尊敬してしまう。松岡さんの千夜千冊で知ったのだが、森繁には『品格と色気と哀愁と』という題名の著書がある。その本はまだ読んでないけれど、多分、品格、色気、哀愁は森繁が好きな言葉、彼の大切な価値観だったのだろう。歳をとった私は、森繁が品格と色気と哀愁の人だったと分かる。エロ爺と品格は、少しも矛盾するものではない。
 森繁の良さが分かり始めたころ、私はまだ、カメラは分からなかったのかもしれない。なぜなら、CONTAXのT2が好きではなかったから。
 T2は、実はカメラ世界の森繁久弥なのだ。
 きらいだった理由の第一は、値段が高かったこと。普通のものの5倍くらいした。金ぴかのデザインもチタンを外装に使ったことも、CONTAXというブランドをウリにしていたことも、みんな気に入らなかった。いやらしいカメラ……。

なんていいカメラなんだ
 50歳を過ぎたころ、中古のT2を買ってみた。写りが全然違った。一枚一枚の写真が物語を語りだすのである。ほかのカメラで撮ったものとは、はっきり違う。
 そういう目で、あらためてT2を眺めると、T2こそが素晴らしいカメラ、素晴らしい工業製品であることが分かる。良い素材、良いデザイン、きちんとした職人の技、ブランドを守ること。これらの要件を満たして、はじめて良いものができるのである。
 その写りは、かなり個性が強かった。強すぎたくらいだ。TシリーズのT、T2、T3を特集した文庫サイズの本があった。T2の写真はすぐに分かった。写真にいつも、物語が付随していた。
 なぜ、性能のいいT3より、T2の写真のほうが好ましく感じるのだろうか。不思議だった。そのときは、T2の独特の味は、感覚としては分かった。だが、言葉で明快な説明ができなかった。浪漫派的あるいは演劇的表現かとも思ったが、少し違うような気もした。寂しさも表現できた。「濃さ」のなかに「はかなさ」も表現できた。
 今なら、自信をもって言える。T2の良さは、「品格」「色気」「哀愁」であったのだと。
by withbillevans | 2012-03-11 01:35 | 写真機
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