東京駅近くの丸の内。日本一のビジネス街。象徴的な三菱1号館の裏の中庭に、シャラの立派な気が植えてある。きれいに花が咲いている。
幹が1本なら幹立ち、複数なら株立ち、と呼ぶ。株立ちには2種類あって、小さいときに寄せ植えのようにして、複数の株を人為的に合わせて1つの株にしたものと、幹立ちの株を5年とか10年育て、その後で根元からスパッと切り、そこから出た複数の新芽を、さらに時間をかけて幹になるまで大きく育てたものがある。後者のほうが育てる時間がずっと長いので、価格も高い。これを〝本株〟と呼ぶ。
庭木の世界では、本株が価値あるモノとされるが、シャラだけは、寄せ植えのほうが、軽やかで合っているように思う。三菱1号館のシャラも、寄せ植えのようだ。ただ、寄せ植えの場合は、幹によって開花時期がずれてしまうこともあり、そういうのはみっともない。
ついでに、シャラ研究家として一言。シャラには、ほっそりと伸びるのと、ガッチリ型で枝の張りがいいのと、2種類ある。好みは様々だが、シャラの良さは「楚々とした」ところだと思うので、シャラに限っては、ほっそりとしたのが好きだ。花の数は、ガッシリ型が多い。
本株にすると、木の成長が遅くなる。最近流行の英国風ガーデンでは、あまり木が大きくならないほうがいいので、株立ちの庭木がよく使われる。こういう庭で、本株のシャラにすると、樹形がガッシリ型になってしまい、そよ風に揺れる風情が出しにくい。だから、寄せ植えの株立ちがおすすめだ。
沙羅双樹というのは、幹が2本のシャラの木のことだとされている。幹立ちの木の幹が途中から2本に分かれたものと、幹が2本の本株という2種類の発生形が考えられる。この場合は、前者が正しい双樹であろう。有名な、妙心寺の塔頭東林院の沙羅双樹は、地面から1.5mくらいの高さから幹が分かれていた。樹齢200年とされていたが、数年前に枯れた。
この沙羅双樹が元気だったときに、しかも満開の時に眺めた経験のある人は、全盛期の美空ひばりのコンサートを、かぶりつきで聴いたことがある人くらい、ラッキーであろう。
この広場と、近くの丸の内仲通りでは、しょっちゅう、映画や雑誌のロケが行われている。この日も、多分ファッション雑誌のものであろうロケが行われていた。
モデルは1人だが、スタッフは10人以上。ワンカット撮るごとに、パソコンで絵の確認をする。チームで一番偉いのは、女性のようだった。編集者なのだろうか。彼女が、OKを出すと、次の作業に進む。カメラマンは、彼女と対等の偉さのようだった。
われわれ外部の者は、モデルばかりに目が向くが、こういう現場では、スタッフが偉くて、モデルは洋服や小物と同じで、1つの素材にすぎない。
しかし、私の目は、モデルより、撮影に使用しているカメラに向きがちである。