農家の庭が好きだ。農家の庭は、夏の終わりがいちばんいい。だから、夏の終わりの農家の庭がいちばん好きだ。
夏の終わりの農家の庭がなぜいちばん好きかというと、農家の庭にある植物、特に花が、夏の終わりごろに、一番いい感じになるからだ。
農家の庭にある花では、どんな花がいいかというと、農家の庭に似合わない花がいいと思う。例えば、グラジオラス、ダリヤ、カンナ、ヒマワリ。丈も花もでっかくて、花の色は鮮やかな原色。昔の日本にはない、外来の花たちである。
日本の農家には(昔はみんな=90%以上=農家だった)、本来ならススキや萩や小菊(これも中国から伝来?)が似合う。明治以降、特に戦後になってたくさんの園芸植物が輸入された。最初は、都市のサラリーマンの小住宅の庭で栽培されたのだろうが、いつの間にか、農家の庭にもこの種の園芸植物が入り込み、主役のようになった。
時間が経つと、小住宅の庭では、この種の花は人気がなくなった。多分、大きすぎたのではないか。したがって、丈を小さくする品種改良が行われたりしたが、ほかにも、優れた無数の草花が輸入されるようになり、戦後の一時期にブームになったこれらの花は、相対的には人気が低落していった。そういうことで、今では農家の庭でしか見られなくなっている。ときどき、懐かしくなって、園芸店やホームセンターに行っても、当時の園芸植物は、ほとんど売られていない。
われわれの年代の者のノスタルジーかもしれないが、少年時代に慣れ親しんだ花に再会するためには、今では、農家の庭を訪問するしかないのかもしれない。