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平林寺 錦繍(1)

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 今日、埼玉県新座市の平林寺に行ってきた。自宅から、電車とバスを乗り継いで約2時間。早目に家を出て、帰宅したのは日が沈むころであった。
 週に2日、仕事でご一緒するI氏が、「先週末、平林寺に行ってきました。錦繍でした。京都の寺に負けていませんでした。多分、今度の週末がピークでしょう」と言う。
 I氏にこんなことをささやかれて、行かないわけにいかない。
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 そして、行ってきた感想であるが、なかなかのものであった。I氏曰く「30年くらい前に行ったことがあった。そのときは大したことがなかったのに、今回行ってみて驚いた。まったく変わっていた。素晴らしかった」。
 実は私も、45年前に平林寺に行ったことがある。そして今日は、そのとき以来の、わが人生で2回目の平林寺であった。以下は、私版の「平林寺と私」。
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 私は大学生だった。自分が何年生だったか記憶が定かでないが、3つくらい年下のスタイルのいい女の子と知り合った。最初のデートは平林寺にした。
 私が育った家では、今もある雑誌『暮しの手帖』を定期購読していた。その出版社が、なぜか写真集を出していて、毎号、大きなスペースで宣伝していたのだ。島田謹介という写真家がモノクロフィルムで撮った『武蔵野』である。いわゆる観光地の絵葉書みたいな景色ではなく、身の回りにある自然こそ美しいのですよ、と教えていた本であった。その中の数枚の写真は今でも覚えている。
 平林寺は、当時から、武蔵野の面影が残る場所として、知る人ぞ知る場所であった。だから、東京に出たら、一度は行ってみたいと、ずっと思っていた。
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 その取って置きの場所を、初デートの場所に選んだのだ。しかも、先輩のM氏が何ヵ月もアルバイトをして買ったKOWA SIXという中判カメラを借りて、まだ高かった輸入品のフィルムTRI-Xを詰めて行った。
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 和製ハッセルブラッドと呼ばれ、プロも使っているカメラを操作できるのです。カラーなんかでなくモノクロのフィルムを使って貴方を撮るんです。すごいでしょう。しかも、こういうなんでもない景色の中にこそ「美」があることを知っているのです。知的でしょう。
 こういう印象を与える作戦だった。
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 季節は、今日と同じように秋の終わりごろだった。12月に入っていたかもしれない。コナラ、クヌギなどの雑木は黄色い葉をつけ、早いものは幹と枝のシルエットだけになっていた。私の記憶では、モミジの木などなかった。駅から寺へ行く道の両側は、今はびっしり住宅で埋め尽くされているが、当時は畑と雑木林ばかりだった。空っ風が吹いて寒かった。冷え冷えとしていた。
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 写真のできは、まずまずだった。でき上がった写真を届けようと、電話をしたら、彼女は電話に出なかった。平林寺は、最初で最後のデートとなった。
 私は、自分が知的過ぎたのだと思った。だから、あまりがっかりしなかった。当日の彼女は、黒いセーター、黒いスカート。まさにモノクロであった。でも、それは写真の彼女であって、本当は赤いセーターだったかも知れない…。まあ、そんなこと、どうでもいいか。
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 先輩M氏は物持ちのいい人なので、そのKOWA SIXは今も、NIKON F、 MAMIYA PRESS SUPER23などの使わなくなった愛機とともに、手元に置いてある。先輩M氏の家に行くたびに、私はこれら懐かしいカメラに触らせてもらうのである。「セーター、何色だったかな」。
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 今日行った平林寺は、赤、黄、緑が織り成すまさに錦繍だった。遊歩道に沿って、たくさんのモミジが植えられており、木は大きく育っていた。
 今の平林寺の雰囲気は、やはり、モノクロフィルムではなくカラーでないと出ないだろうと思った。
 私が、TRI-Xを詰めたKOWA SIXで撮ったコナラやクヌギの雑木は、45年経過して、さらに立派な大木になっていた。
 写真とは、空間を記録するもののように見えて、実は時間を記録するものだと、改めて思った。
by withbillevans | 2013-11-30 19:30 |
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