横浜の野毛にあったジャズ喫茶「ちぐさ」が再開したと、風の頼りに聞いていた。先日、再開後初めて行ってきた。
お昼ごろ、店の前に立った。「準備中」の札がぶら下がっていた。中から、ジャズの音が聞こえる。せっかくきたのに帰るのは惜しいと思い、ドアを開けると、私(66歳)と同じか少し上くらいの男性がいた。店主のようだ。「やってますか」と尋ねると、「どうぞ」と言う。札を間違えてかけていたようだ。
店に入ると、大きなスピーカーボックスがこっちを向いていた。四十数年前の記憶が戻ってきた。「おんなじだ」と思った。世田谷の学生寮から、横浜まで、何回か通った。名物マスターに何か難しいことを言われないか心配しながら、隅っこでレコードを聴いていたことも、思い出した。
当時は、吉祥寺など、中央線沿線の新興勢力が人気だった。米国JBL社の大型スピーカーで客を集めていた。それに対して、「ちぐさ」は純国産で応戦していた。マスターが頑固だったのだ。今回、チラッと見ただけだが、ウーハー(低音用スピーカー)はJBL製のように見えた。
飾ってあった写真パネル。右が当時のマスター、吉田衛さん、左は若きトランペッター日野テル正。
ドラマーの富樫雅彦。デビューは衝撃的だった。
店の2階が資料室になっていた。
再開した「ちぐさ」の外観。実は、オリジナルの「ちぐさ」は、ここから少し離れた場所にあった。その店は、今も当時の外観のまま存在するが、違う店になっていて、最近は、営業していないようだ。
こちらのほうが、目立つ場所で、いい。
野毛には、この7,8年、毎年1度は行って、散策している。この、再開「ちぐさ」の並びは、以前からいい雰囲気で気になっていたところだ。
当時のマスター、吉田さんは、若造が話をできるような感じの人ではなかったが、今の方はやさしそうだった。コーヒーを注文したら、リクエストを聞かれた。「アート・ペッパーのミーツ・ザ・リズムセクションを」とお願いした。一番上の写真に、そのLPジャケットが写っている。当時は、(常連でもない若造の私が)リクエストなんてとんでもない、と思っていた。
当時、この店に来たときは、いつも緊張していたように記憶している。この日初めて、のんびりした気持ちになれた。年はとってみるものだ。えへへっ。