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釜石小学校と校歌   釜石(その2)

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 釜石に行ったら、訪ねてみたい場所があった。釜石小学校である。大津波で、釜石のたくさんの方が亡くなったが、この学校に在籍する児童たちは、全員生き延びた。同市教育委員会が、非常に実践的な津波からの避難訓練を実施していた成果だと聞いた。また、同校の校歌は、先日亡くなった井上ひさしの作詞になるユニークな歌詞なのだそうだ。この2つが関係あるのかわからないが、とにかく行きたかった。
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 小学校は、高台というか山の中腹にあった。市街地から50m以上高いところにある。100m近いかもしれない。正門には「津波避難場所」の看板があった。市内の津波の高さは最大10mほどだったというから、ここにとどまっていれば、あるいは大揺れの後ですぐここに逃げてくれば助かったはずである。
 しかし、地震は、放課後に発生した。ほとんどの児童は自宅に戻っていたか、戻る途中だった。
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 子供たちは、教えられた通りに行動した。すぐに高い場所に逃げる。自宅に残した大切なものをとりにいったりしてはいけない。体ひとつで逃げる。周囲の人に「逃げろ」と声をかけ逃げる。友だちと手をつないで逃げる。体が弱くて動けない人がいたら、手助けして一緒に逃げる。何があっても、高いところに逃げる。
 こうして、全児童が生き延びた。
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 小学校の体育館は、津波で家を流された人たちの避難所になった。厳しい生活のなかで、被災者はやがて子供たちの歌う校歌に、唱和するようになったという。詩の内容に励まされたのである。
 中越地震の時は、平原綾香の「ジュピター」が、歌われたと聞いたことがある。
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 作詞者は、岩手県出身で、釜石でも暮らしたことのある井上ひさしである。
 この校歌は確かに変わっている。ふるさとの山や川や海が出てこない。校名すら出てこない。2つの小学校が合併して、今の釜石小学校になった10年前に、この校歌は制定されたという。
 私は、校庭の奥の木陰まで行ってみた。そこに、校歌の譜面と詩が刻まれた石碑があった。でも、違う歌であった。2つの小学校のうち、この校舎を使っていた学校の校歌であった。
 井上ひさしは、心配りの人だったので、不公平にならないよう、2つの校歌のどちらとも異なる詩を書いたのかもしれない。再度、合併してもいいようにという配慮があったというのは、もちろん、うがち過ぎだ。
 そのような詮索はともかく、全児童が生き延びた「釜石の奇跡」のこともあり、この校歌は市民に、そして県外の人に知られるようになった。
 私が釜石を訪問した数日前に、JR釜石駅前広場に、地元のロータリークラブの手で、この校歌の碑が建てられたのである。碑は3つあって、「ひょっこりひょうたん島」の歌との関係などが分かるようになっている。
(上の写真をクリックして拡大すると、校歌の全文が読めます)
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 この校歌は、ユニークだ。何回かゆっくりと読んでみたら、井上ひさしの肉声が聞こえてくるような気がした。
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 さて、である。手元に、10冊近い『文章読本』がある。高名な作家の手になるものが多いが、私のお気に入りは、一番上の井上ひさし版である。
 改めて読んでみたら、彼がこの校歌を、どういう文章論に基づいて、あるいはどんな気持ちから書いたかが、少し分かった。長くなってしまうので、そのことはここでは書かない。面白いくだりがあったので、それだけ紹介したい。

 あの折口信夫(釈超空)を批判しているところだ。折口は二十数校の校歌を作詞したが、みんなワンパターンだと怒っている。歌詞の一番は朝、二番は昼、三番は夕方に時刻を設定し、ふるさとの山や川などの自然の風景について、その時間ごとの美しさを讃え、その間に学ぶことの価値を示す言葉をちりばめていく。注文に応じ、機械的に、いくつでも作れてしまう、というわけだ。
 私は、自分が出た小学校、中学校、高校、ついでに隣村の学校についても、この手法を使って校歌の作詞をしてみたら、簡単に作れた。(この部分は妄想。でも本当に簡単に作れる)
 井上ひさしの釜石小学校の校歌は、人間が生きていくうえでの大切なこと、生きていくうえでのマナーを、歌ったものだと思う。こういう歌は、1つしか書けないかもしれない。(いや、書くプロだから、そんなことはないだろうが)
 私は、井上ひさしも、折口信夫も、同じくらいに好きなのである。
by withbillevans | 2013-07-30 18:00 |
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